HBR[ハーバード・ビジネス・レビュー] バックナンバーの振り返り《004》

《003》HBR〔小売業は、人件費を削ってはいけない〕2012年7月号
  〜ゼイネップ・トン(マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメント準教授)〜

<業績低迷の悪循環から脱却する方法『小売業は、人件費を削ってはいけない!』>

小売業は、常に激しい価格競争にさらされている。そんななかで利幅を何とか確保しようとすれば、つい人件費に手をつけてしまいがちだ。
より少ない人数で現場を回そうと試み、教育や研修に至っては二の次となる。
ちょっと待って欲しい。高業績を上げている企業をよく見ると、人件費カットどころか、従業員への投資を積極的に行っている。

人件費をケチれば、オペレーションに響く。現場は疲弊し、離職率が高まり、顧客対応の質が下がり、それが業績悪化につながる。
この企業にありがちな悪循環を断ち切るにはどうすればよいか。

コンビニエンス・ストアのクイックトップ、スーパーマーケットのメルカドーナやトレダーズ・ジョーズ、ホールセール・クラブのコストコなど、成功企業に学ぶ。

〜以下、次回〜

◎コラム(筆者の問題指摘・認識)<アメリカの小売業界では、条件の悪い雇用の従事する労働者が多過ぎる!>

(1)賃金
:2010年のアメリカのレジ係の平均時給は9.52ドル。
:全職種の平均を55%下回る。
:週40時間働いても、年間1万980ドルにしかならない。

(2)フルタイム
:だが、それしきの好運でさえ店舗の従業員には保証されていない。
:94%の小売業が週30時間以上働く人であればフルタイマーと呼ぶ。

(3)パートタイム
:小売業従業員の41%がパートタイマー。
:彼らの時給はフルタイム従業員より35%低い。
:しかも、パートタイマーはたいてい医療給付を受けられず、勤務シフトもすぐ削られるため生計を立てられない。

(4)スケジュール
:賃金や福利厚生が不十分なだけでなく、仕事のスケジュールが予測できない。
:人員配置を客足に合わせるため、わずか1週間前に従業員のスケジュールを決める。それさえ間際に変わることがある。
:3〜4時間のシフトが一般的であり、従業員は必要に応じて出勤出来るように待機を求められることも多い。
:直近のシフト変更は、家事や育児や他の仕事を、不可能とは云わないまでも、かなり妨げている。ただにさえ苦しい家計に大打撃になりかねない。

(5)社会への影響
:従業員への過小投資は結局、社会にとって高くつく。
:小売業の従業員は、他の業界よりも公的援助を受けている。アメリカには大きな所得格差があるが、彼らは明らかにその敗者側である。

〜村上解説〜
本論に入る前のこの指摘は、小売業に関わっているものに対しる強烈な問題指摘です。特に(4)に指摘にはショックを覚えました。当たり前のごとく、経営側の立場で指摘の通り(正しいこととして)企業に指導してきたからです。それが(5)での指摘通り、社会的ひずみを固定化する原因の一つではないかとの問題指摘は、厳しいものです。本論の“表題の問題提起”を真摯に学ぼうではありませんか。

<12月7日ここまで>

◎激しい価格競争のなかでは、人件費を削るしかないのか。

◎ ウエグマンズやコンテナ・ストアが従業員に条件の良い雇用を提供できるのは、価格が高くても消費者が気にしないからであろう、と結論つけるのはたやすい。

◎ かように低価格と従業員への投資はトレードオフの関係にあると思われているが、それは解消できる。

◎ コンビニエンス・ストアのクイックトリップ、スーパーマーケットのメルガードナやトレーダー・ジョーズ、ホールセール・クラブのコストコなど、大きな成功を収めている小売業チェーンは、従業員に手厚い待遇を用意しつつ、業界一の低価格と堅実な財務実績を誇り、顧客サービスでもライバルを凌駕している。

◎低価格セグメントで条件と悪い雇用が提供されているのは、コスト面でのやむをえないからではなく、意思決定の結果と言うことだ。

◎トレードオフを解消する鍵は、人への投資と適切はオペレーションの組み合わせだと判明している。

<手をつけやすいコストから削ってしまうことの罠>

◎時に売上高の10%を超える人件費は最もコントロールしやすい(カットしやすい)コストだ。

◎多くの企業では従業員は売上要因どころかコスト要因と見なされている。

◎店長には、売上をコントロールする権限を与えられていない(商品構成、店舗レイアウト、価格、昇進についての決定権も無いに等しい)一方、人件費については、かなりの権限を持っている。

◎人件費削減による金銭的メリットは即効性があり評価しやすいが、その影響が間接的かつ長期的なためにデメリットが見えづらい。

◎ホーム・デポのよく知られている事例。GEの幹部であったロバート・ナルデリは、2000年末にホーム・デポのCEOに就任するや、人員配置を手薄にして、パートタイマーの比率を増大させることでコスト削減と増益を試みた。しかし目標は達成したものの、ホーム・デポのキャッチフレーズであり、間違いなく競争優位の源泉であった顧客サービスが損なわれてしまった。顧客満足度はたちまち下がり、既存店の売上成長は鈍化し、マイナスになるとしも出てきた。

◎様々な小売業界の店長が、目前の業績目標を達成するため、手抜きやミスが増えることを覚悟の上で従業員を減らさざるを得ない、と語った。その反面、従業員を減らすことが収益で悪影響を及ぼすのではないか、とも懸念していた。

◎人員不足の小売店は、結果的にチャンスを逃す。

◎利益を持続的に最大化する人員配置水準を見極めよう努力するべきである。

◎小売業では全般的に、労働者を確保することへの投資が少ないばかりか、労働者の質の向上についても手をこまねいている。低賃金で雇用し、充分な福利厚生も提供しないし、適切な教育研修も施さない。結果として、仕事への責任感に乏しいパートタイマーのようなスキルの低い従業員の離職率が高まり、人手不足に悩まされることになる。

<村上 解説>
「内容の云わんとするところは分かる。しかし・・・」が、多くの読者の感想でありましょう。しかし、しかしは“負け犬”のです。
次に著者は、本文内ではなく、「囲み」の答えを暗示しています。何故、《「内容の云わんとするところは分かる。しかし・・・」が、多くの読者の感想》となるのかが、皆さんに知って頂きたいのです。

「囲み⑴」〔COSTCO(トストコ)〕
       :ほとんどの小売業では、キャリアの将来性がないが、同社の従業員に昇進機会を提供する。
       :店長の約98%が内部昇格者だ。
       :従業員1人当たり売上高は、サムズ・クラブのほぼ倍である。
       :コストコの1平方フィート当たり売上高【986ドル】、サムズ・クラブの1平方フィート当たり売上高【588ドル】
「囲み⑵」〔TRADER JOE’S(トレーダー・ジョーズ)〕
     :フルタイム従業員の初任給は年4万〜6万ドルで、一部のライバル企業の倍以上。
     :労働時間当たり売上高は、アメリカのスーパーマーケットの平均を40%余り上回る。
     :1平方フィート当たり売上高は、アメリカのスーパーマーケット平均の3倍以上。

こんな魅力ある(お客さま、従業員、経営者にとって)フォーマットを開発したのです。その実現に、深化に人員を投入するのは当たり前でしょう。人時を減らそうとする訳はありません。付加価値を生み出す(可能性のある)何かなしで、この筆者の論に乗って人時を上乗せする愚挙をしてはなりません。
課題は、「付加価値を生み出す(可能性のある)何か」を創造することです。

<人への投資を怠れば、オペレーションは劣化する>

〜12月9日ここまで〜

<人への投資を怠れば、オペレーションは劣化する>

◎スーパーマーケット店舗の現場では、売れた商品を倉庫に取りに行こうとすると買い物客から質問を受ける。質問に答えていると人気商品の補充が出来ないが、質問に答えるべきか。顧客の見つけられない商品を探しに行くと、翌週の販促の準備が出来ないが、探しに行くべきか。業務上の優先順位に折り合いをつける判断力が要求される。
知恵を働かせた従業員は、買い物客から絶対質問を受けない方法を生み出す。「客を顔を会わせないようにすること」、「目が合ったら、目をそらすこと」、「忙しそうに振る舞い、声をかけにくい雰囲気をつくること」.この種の“ノウハウ”は、全従業員に瞬く間に伝播する。しかして、オペレーションは劣化する。

<データが歪み、計画が狂い、業績が下がる悪循環>

◎オペレーション・マネジメントの研究によれば、従業員の離職率や不十分な教育研修は、業績不振と因果関係がある。

◎店舗に同じインセンティブを提供しても、店舗によって業績は大きく異なることが判明した。最も業績のよい店舗の売上高は、最も業績の悪い店舗より43倍も多かった。これは労働慣行によって説明出来る。教育研修が少なく、仕事量が多く、離職率が高い店舗は、業績が振るわなかったのである。

◎ 業務遂行に従業員は不可欠だ。店員が少な過ぎる、意欲や能力に欠けるなど、人材面で他店より引けを取る店は、業務遂行に差が出てしまう。しかし、殆どの小売り企業が、オペレーション上の問題の深刻さに気づいておらず、従業員への投資が不十分なせいでどれだけ損失をだしているか理解していない。

◎メーカーは販促キャンペーンに何百万ドルもの費用をかけるが、その内半分が全く実行されていないか、遅れて実行されている事実を業界団体が調査し明らかにした。

◎以上の様な問題が、POSデータを歪め、在庫、販促計画を狂わせる。

<良循環を生むオペレーションとは>

◎人件費は最小限に抑えるべきコストではなく、売上と利益の促進要因だと考えた時、好循環が始まる。

◎ 従業員への投資が優れたオペレーションを可能にし、売上高と利益の増大に結び付く。

◎ 事例4社

(1)メルカドーナ(スペイン最大のスーパーマーケット・チェーン。店舗数1300以上。売上高160億ユーロ)
(2)クイックトリップ(アメリカのコンビニエンス・ストア・チェーン。店舗数540以上。売上高80億ドル)
(3)トレーダー・ジョーズ(アメリカのスーパーマーケット・チェーン。店舗数340以上。売上高80億ドル)
(4)コストコ(ホールセール・クラブ・チェーン。店舗数580以上。売上高760億ドル)

◎四社の従業員は競合企業より、高賃金、充実した教育研修や福利厚生、適正なスケジュールなどの待遇に恵まれている。コストコは最大のライバル、ウオルマート傘下のサムズ・クラブより約40%給料が高い。トレーダー・ジョーズのフルタイム従業員の初任給は年四万〜六万ドルで、一部の競合企業の2倍以上である。

<村上解説>

  この主の著者の論理展開は、誤解、反発を生みやすいところがあります。高賃金、充実した教育研修や福利厚生、適正なスケジュールを真似すれば優良企業でなれそう
  に聞こえます。勿論、そんなことはあり得ません。「充実した教育研修」に答えがあります。卓越したビジョン、業態フォーマット、運営システムなどまさに“充実した
  教育研修”なのでしょう。

<12月12日ここまで>

<トレードオフは解消できる>

◎事例の4社(メルカドーナ、クイックトリップ、トレーダー・ジョーズ、コストコ)は、従業員の仕事をより効率的で充実したものにし、顧客のためにコストを下げてサービスを改善し、売上高と利益を伸ばすというオペレーションで従業員への投資を補完している。一連のオペレーションに従えば、従業員への投資と低価格の維持に伴うトレードオフは打破出来る。

<提供するものをへらす>

◎スーパーマーケットは実にたくさんの種類、サイズの歯磨き粉を取り揃えているが、種類が多ければ多い程需要予測が難しくなり、在庫を抱えることとなる。製造コストはもとより、需給のミスマッチなど、サプライチェーンのあちこちでコストがかさむ。店員の仕事も複雑になる。総じて見れば、品揃えの豊富さは必ずしも売上増につらがる訳ではないのだ。

◎販促キャンペーンもえてして多過ぎる。販促や先物買い(販促終了後に定価で売ろうとして、小売企業や卸売企業が販促対象製品を買うこと)に起因する顧客需要の変動は、サプライチェーンの効率の悪さにつながる。

◎販促活動は、従業員の仕事量を増やし、労働生産性を低下させる。

◎ 好循環企業は、オペレーションを簡略化させる。販促キャンペーンを乱発するより「毎日低価格」を維持し、品揃えを少なく保つ。

◎ 顧客は選択肢が限られるのを嫌うだろうか。事例を見れば、そうでないことがわかる。むしろ商品が少なければ、従業員は店舗にある商品に精通し、適切な提案が出来る。トレーダー・ジョーズが典型例だ。

<従業員に複数のスキルを習得させて、柔軟性を実現する>

◎2000年代初めにホーム・デポが取った「柔軟な」アプローチでは、知識豊富なフルタイム従業員を、住宅の改修や店舗の商品の知識がなく、顧客を効果的にサポート出来ないパートタイマーに置き換えた。当然のことながら、予測不能な就業スケジュール、短時間シフト、将来性のない仕事は従業員の士気を損なった。士気の低下は、常習欠勤、遅刻、離職を招き、労働供給が不安定になる。客足に応じた労働力の配置がさらに難しくなる。

◎クイックトリップとメルカドーナは、客足に応じて従業員数を変えるのではなく、従業員の仕事内容を変えている。さまざま仕事をこなせるように訓練してしるのだ。

◎クイックトリップの場合、パートタイマー従業員は40時間、フルタイム従業員は2週間の研修を受ける。内容は、レジ打ちに留まらず、コーヒーの入れ方、商品の発注、フロアや駐車場の清掃、トイレの掃除、クーラーやフリーザー、グリルの仕入れ等多技にわたる。

◎これらの企業では、客足の多い時間帯には顧客に関わる仕事に専念し、客足の少ない時間帯にはその他の仕事に専念する。

<人員以外で徹底してムダを省く>

◎従業員に投資する好循環企業は、仕事の質についてはいっさい妥協しない。ムダをなくし、効率を上げようと懸命だ。

◎マテハン機器の開発、工夫。サプライチェーンのムダをなくす。小さな意思決定を現場にまかせる。特定店舗に属さない従業員を多数抱えて、流動的に必要箇所に投入する(クイックトリップ)。

【結論】高品質と低コストの両立は、サービス業でも可能である!!

    <村上まとめ解説>
    人減らしとローコスト・オペレーションとは、全く別次元の話しです。低価格と低値入れ率とを一緒に考えてはいけません。    100円ショップは、単価を低く設定して、品揃えする業態ですが、商品の値入れ率はスーパーマーケットより高く、米国で    も増え続ける低所得者層をターゲットに隆盛を極めています。
    よい論文ですが、《高品質と低コストの両立は、サービス業でも可能である!!》という結論は、意味不明です。事例の優良    企業(好循環企業)では、人減らしせずにローコスト・オペレーションを実現しているよ、と言いたいのでしょう。
    人材は事業経営の根幹です。人材に余裕ができたら、新たな付加価値開発に投入するのが経営です。「人減らし」との「人時    コントロール」を混同しないように社内で定義すべきでしょう。著者は、小売業、サービス業各社の「人材」の扱いに危惧を    抱いたのでしょう。日本でも同感です。

<完>

次回は〔アップル・ストアの成功の教訓〕をご紹介します。お楽しみに!

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