負け犬の遠吠え~村上忍のエッセイ⑥~ ティッシュ配りの達人

皆さんが繁華街、駅前で必ず接するか目にするのがティッシュ 配り(手配り販促広告)である。常日頃何気なく接してあるいは目にしている。一頃はサラ金のものが多かったようだが、最近では外食産業、旅行業(HIS) のものが目に付く。私などは、風邪気味のとき、うっかりしてハンカチを忘れた時、助かるぐらいのな認識にしかなかった。
なんでこんな話しを始めたのかというと、身近かに“ティッシュ配りの達人”が存在したからである。

◇彼女のこれまで

仮にNさんと呼ぶことにする。彼女は短大を卒業後、夢だった幼稚園の先生になった。
そ の後、結婚して幼稚園を辞めたが、自分が専業主婦には飽き足りないことを認識して人材派遣会社に登録して仕事先を探した。運良く、一部上場の大手小売りグ ループの秘書室に派遣されて、ほどなく認められて役員秘書を担当した。 仕事にも慣れ秘書業務の緊張感もやり甲斐に感じられるようになった矢先、妊娠が分かった。人材派遣会社からの社員は、こんな場合は退職しか選択肢はない。
二人の子供に恵まれしばらく子育てに専念した。二人の子供が小学生になった時、当然の如く家庭外に仕事を求めた。生活の為にもあるが彼女の場合、生き甲斐、自己実現欲求は強いかったようだ。

しかし、現実は甘くはない。仕事そのものがない。結局、地元のゴルフ場のレストランのウエイトレスのパートタイマーをやるしかなかった。
ほどなく、運が向いて来た、というより彼女の場合はチャンスを逃さなかったと言うべきか。
あ る時、秘書時代の顔見知りのコンサルタントが、プレイしに来ており、偶然レストランで顔を見かけた。たまたま、自分の担当するテーブルではなかったが、 「◯◯様、お久しぶりでございます。」とご挨拶に伺った。「あなたは××社の役員室の秘書だったNさん!?」驚く相手にこの間の経緯を手短にお話しし「ど うぞ、お楽しみ下さいませ。」とその場を去った。
コンサルタントのグループの昼食が終盤にさしかかった時、注文外のコーヒーが運ばれて来た。「Nからでございます。」とウエイトレス。厨房口の前でNさんが控えめに会釈していた。
このコンサルタントは、プレイ終了後にレストランに立ち寄り、「Nさん、よければうちの事務所で働きませんか。条件他は明日以降に名刺の連絡先へ電話して下さい。」

◇Nさんの仕事ぶり

こ のコンサルタント事務所で働き始めたNさんは、××社の秘書時代に培った接客応対力、事務処理能力に磨きをかけ、新たにパソコンに挑戦して、Word、 Excelほかのソフトも精力的学んで身に付けて、同事務所でなくではならない存在となった。その頃、事情があって離婚していたNさんは、更なる可能性を 求めて、パソコン能力を活かす(磨く)道を求めた。
地もとのパソコン教室のインストラクターの職を得たのである。

◇順風満帆とは往かないNさんの人生、だが、それでも挫けないのがNさんの真骨頂

パソコン能力を活かして生活の基盤を整えて、自己実現を果たす。理想の軌跡を走り始めた筈だったが、現実は思った通りには運ばない。
収入が予想したよりも低い。これはこれからの頑張り次第としておこう。
能力・実力の世界かと思ったが、やはり、人間関係がうっとうしい。存外、雑務が多い。雑務の合間にインストラクター業務をやっている。極めつけは、駅頭でのティッシュ配りである。「えー、それってなーに?」であった。
地元である。ご近所さんも通るかもしれない。友人たちも、子供達のPTAの親御さんたちも・・・。
私が目ざすパソコン教室のインストラクター“先生”が、ティッシュ配りですって!

◇頭の切り替えが早いのもNさんの真骨頂

この間の経験でパソコン教室の経営実態も解ってきていた。
新規の生徒を獲得出来なければ、教室経営はジリ貧になり、早晩閉鎖となる。つまり、新規の生徒を獲得は、最重要課題なのである。
それをそこらのフリーター・アルバイトには任せなれない。

≪最高のパソコン教室のインストラクターは、最高の新規の生徒を獲得者でなければならない。≫
と考え付くところがNさんのすごいところだ。

理屈はそうであるが・・・・。かっては、通い慣れていた筈の駅頭が怖かった。
決心して立つ場所を決める。おもむろに、ティッシュを取り出す。誰もティッシュを受け取ってくれない屈辱感。時間の経過だけが頼りだった。
しかし、1日で客観的に自分の姿、立場を考えられるようになった。
恥ずかしそうにやっている自分、イヤイヤやっている自分、素人ぽくやっている自分が屈辱的であることに気付いた。「自分らしくない!」
目的は、ティッシュを受け取ってもらうことだ。どうやったら受け取ってもらえるかを考えよう。
受け取ってくれないのは、渡す角度の問題か、渡すリズムの問題か、タイミングの問題か、表情の問題か、笑顔か、真剣味を出そうか、必死さを出そうか、媚びへつらいでいこうか、色気でいこうか(これは無理か!?)等など。
ほどなく、Nさんは、原則が別のところにあることが解った(気づいた)。

①極力、毎日立つこと
②決まった場所に立つこと
③明るく声をかけてティッシュを渡すこと
④差別しないこと
⑤目を合わせる(相手の表情の変化を見逃さないこと)
⑥相手に気配りすること
⑦動きをつけること

◇本質は、人間関係を築くことであった!!
~この本質を体得した“真実の瞬間”が訪れた!~

「お早うございます」に反応してくれる人が増えてきた。「ご苦労様!」、「私は頂いても入れないから・・・」、「貰うだけで悪いねえ」
顔見知りが圧倒的に増えていた。ティッシュを渡さないでも(受け取らなくても)挨拶を交わす人もいる。
次第に新規顧客の獲得件数も増え始めた。「孫の机の上のあなたのティシュの山を見て、パソコンをあなたのところで習うことにしたのよ。」というおばあさんも出てきた。
先月は、抜群の新規顧客の獲得件数で特別社長賞を受けた。
友人たちもこの時間にNさんに会うのなら、駅前のあの場所よ、となっている。

◇この取材を通して私が知ったこと、学んだこと・・・

なによりも、駅頭での(繁華街での)ティッシュ配り(手配り販促広告)が、効果的であり、その効果に経営の浮沈をかけている業種、業界が存在することを思い知った。
現状では、安易に(効果なく)ばらまいている企業が実に多いことも知った。
“ティッシュ配り”を極めると、人間関係の構築に行き着くことを教えられた。
徒に、家の軒先を巡る、街頭に立つ托鉢の禅坊主にきかせてやりたい。

それにしても、Nさんの行動を支えるものは何だろうかと考えさせられた。。
プライド、意地、夢を追いかける自己実現欲求、向上心であろうか。

ま た、接遇訓練の理屈、内容(お辞儀の訓練、発声訓練)について、このパソコン教室を経営している会社が、熱心であり習熟しているということが、このケース の主題とはならない。ましてや、顧客の心理分析や広告宣伝の<ア・イ・ド・マの原則>の机上の学習などを、このパソコン教室を経営している会社が熱心であ るという話しでもないであろうだのう。
結果としてかもしれないが、パソコン教室のインストラクターに駅頭でティシュ配りを”強制し”、≪最高のパソコン教室のインストラクターは、最高の新規の生徒を獲得者でなければならない。≫と考え付かせたこの経営者が偉いのである。

Nさんは、今月も自分が所属する教室の新規入会者12人中9人を彼女が獲得したそうてある。(2011年9月27日)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加