≪Ⅰ≫“あいさつ”の重要性と“あいさつ”のない集団の深刻度

〈1〉

◎“あいさつ”の二つの側面

あ いさつは、一般的に人間関係を互いに確認しあう手段である。あいさつ抜きでは、相手の自分に対する気持ちがわからない。多民族国家のアメリカでは、あいさ つは“生き抜く”ためにもきわめて重要である。見ず知らずの相手が、自分に危害を与える存在か否かは、あいさつでしか確認出来ないからである。

勿論、小売業、サービス業に於いては、基本(前提)である。

あいさつの別の側面とは、儀式の始まりとしての“言葉”である。これは個人的な人間関係を感じさせない(させてはいけない)ところが最初の側面との決定的な違いである。
JAL,NHKのあいさつは、後者のものであり、そこのOB,OGが、退職後の<接客応対>訓練を指導するという“皮肉”が、我が国のCS(顧客満足)への取り組みを混乱させている。

◎“あいさつ”運動の両極(似て非なる取り組み!)

小売業、サービス業では、“あいさつ”運動が不断になされている。この“あいさつ”運動の対象は、無論お客さまである。お客さまを自分らの集団に囲みこみたい、あるいはお客さまの集団の仲間に入れてほしいのである。
ここで大いなる勘違いをしている企業が多い。“JAL,NHK型儀式あいさつ”を徹底しているのである。あれは“お客さまとの人間関係拒否”のあいさつなのだ。
CS(顧客満足)とは結びつかないことにチェーンストア経営者は、何故か気が付かない。
“あいさつ”運動の成果のバロメーターは、お客さまの反応である。お客さまの方からあいさつしてくださることがゴールである。そのためには、“JAL,NHK型儀式あいさつ”を放棄することから始めなくてはならない。

※新生JALは、初めにマニュアル応対を廃棄処分することから再スタートしたと聞く。マニュアル接客では、お客さまとの人間関係は深められないと知ったからである。

◎社員同士の“あいさつ”がないことの深刻さ!

実は、社員同士の“あいさつ”がない、徹底されていないという会社も存在する。勿論、訪れたお客さま、お取引先の方にも関係者以外は一切あいさつなしである。
そういった企業のトップ、経営幹部は、この問題の深刻さに気付いていない。逆に、大きな声であいさつし合う企業集団に対して眉をひそめる。こういう企業が、政策目標に一丸をなって向かうために(大声のあいさつを)やっていることに気付かない。
<あいさつをし合わない集団>などあるのかと信じられない人もおありだろう。どうやって、意識を鼓舞するのかと疑問を持つであろう。
山谷の“どやがい”でその日の仕事を求めて群れ集まる集団、ここでは互いのあいさつはないかもしれない。個々が仕事はもらえればよいのだから。実は、そのレベルの企業集団も存在する。

組織集団のあいさつの徹底は、同一集団に属することの確認である。共通の目標、目的を目指すことの確認である。
社員同士の“あいさつ”がない、徹底されていないという会社組織は、お金(給料)だけが目的の“偽装結婚”集団化している(その傾向に向かっている)危険な状況にある。幹部、管理者の意識に問題がありそうだ。
あなたの会社、本部、店舗は大丈夫だろうか。

<2>

“あいさつ”の重要性と“あいさつ”のない集団の深刻度

人間は、哀れなものである・・・
どれほどの“建て前”と“先進者の作った(導入した)儀式”と“嘘っぱちを知っていらがら作成するデータ”を前提に(にまみれて)生活(活動)しているものなのであろうか。

※”建て前”・・・お客さま第一!など<よい”建て前”、悪い”建て前”あり>
”先進者の導入した儀式”・・・売り場への出入りの際のおじぎなど<よい”儀式”、悪い”儀式”あり>
”嘘っぱちを知っていらがら作成するデータ”・・・出退勤管理のシステムを導入しながら、[退店スキャン]をした上で、居残り残業をするは、[退店スキャ ン]を意図的にやらずに翌日残業なしで伝票を出す方式が”何故か”全店に徹底している企業。など<許される”嘘っぱち”はない。>

誰かが、レジであのように、手を前に組んで、お辞儀をするのがよいと決めて、広めたのであろうか。広めた本人は、どんな根拠と信念をもって広めたのかが知らない。(比較的新しい”はやり”である。)
十分に広がってしまえば、否定することは難しい。意味のない事だと言っても受け入れられない。

「あなたの理屈でいくと、お辞儀そのものまで否定できる。欧米人が我々に言うように・・・」
結局、広めきった者の勝ちである。「本人たちが、喜んで?!・・やっているのだからよいではないか・・・」こうなると文句を言う側の負けである。
理屈よりも“儀式化”した方が伝播力が強いのである.

問題は、人間関係を深める手段(あいさつ)を儀式化して、本来の機能と場を失わせてしまったことである。セルフ・サービス方式のレジは、“唯一の”接客の場であるから問題を大きい。
この発案者の方には、悪意はなかったのだの思うが、日本のスーマーマーケット業界のCS(顧客満足)への取り組みを10~20年遅らせることになろう。
何 故なら、セルフ・サービス方式を採るスーパーマーケットの唯一の接客の機会を“儀式化(マニュアル化)”して、本来のお客さまを店の従業員との人間関係を 深める機会を奪ってしまったのである。神事の場において、神主(神社関係者)と参拝者との人間関係が深まらないように・・・。

※米国でもウォルマートスーパーセンターのようなディスカウンター業態では、レジで人間関係を深めることは、望めない。そこで入り口(出口)にお年寄りの“グリーター”を配している。

この上で、スーパーマーケット経営者は、今後、どのような対策をとるべきであろうか。
セルフ・レジの場でのCS追及を諦めるか。あのように健気に“儀式”をこなすチェッカーを混乱させないために。モラールを落とさないためにも。
現状は、どう見ても筆者(私)の主張は不利である。負ける喧嘩はしないのが大人の分別(対応)か。
しかし、この年寄りは、分別がきかない! 困ったものである。

※ ある経営者は言う。「渥美俊一氏が、オペレーションを“作業”と定義したことで、日本のチェーンストアは10年遠回りした・・・」と。しかし、堤清二氏の 意図により米国のジュエルで学んだ研修生は、オペレーションを“運営管理”と理解し、そう主張してきた。当時、業界関係者は我々の発言に一顧だにしなかっ たのである。これを世間では“負け犬の遠吠え”と言う。
「あの渥美先生の情熱と信念には、何人も敵わなかったからである!」筆者は、敬愛の念を込めて、心からそう思う。

<3>

“あいさつ”の重要性と“あいさつ”のない集団の深刻度③

◎初期の我が国のスーパーマーケットのチェックアウト事情

初 期のスーパーマーケットでは、チェッカー要員が集まらなかった。出店が続いた。したがって、チェックアウト部門は、寄せ集め集団であったし、レジでの精算 手続き、手順も手探り状態であったのである。ましてや接客方式など分からない。あの<接客○大用語>、訓練テキストの原型は、百貨店から仕入れた。“手を 前で組む”、“3種類の角度のおじぎ”、“接客用語”は、百貨店“直伝”であり、ほとんどスーパーのお店では、使い機会のない言葉、バカ丁寧な言葉使いな どが訓練された。そのなごりが、今も随所に残っている。たとえば、どこにもお辞儀がついて回る。ここでは、言葉だけでお辞儀は必要ないのでは・・・? こ れも昔のなごりだろう。

当時のチェックアウトの抱える問題点は、次のとおりである。
●慢性的な人手不足
●教育訓練不足
●売り場の管理不備が、チェッカーに対するお客さまの苦情としてのしかかる
●打刻(登録)間違い
●接客態度に対するお客さまの苦情
●レジ台数があっても、チェッカー不足で、並ばせる(待たせる)精算
●本部商品部がチェックアウト問題に当事者意識なし
●精神的、肉体的にきつく退職者が多い
●腱鞘炎の発生
●チェッカーによる不正の多発
とにかく、過酷な部署であり、“日の当たらない”部署だったのである。

◎企業としての対策の優先順位

上記の全ての項目が緊急に改善しなければならなかった。<米国先進スーパーのお客さまとチェッカーとの心あたたまる光景>どころではなかったのである。
≪未熟練チェッカーがお客さまとトラブルを起こさせないためには・・・≫これが、課題であった。
そこで、[満足要因]を追及するのではなく、[衛生要因](苦情の原因をなくす)を追及ことから入ったのである。これは現状の問題を考えるための重要な事実である。
我が国の小売り業界では、“マニュアル”という概念を時として独特な使い方をする。
マニュアルは、複雑な作業の手順を明記して出来上がりを一定化するための手順書のことである。我が国の小売り業界では、“マニュアル化”という概念を時として独特な使い方をするとは、<担当者の接客上の使う言葉を定型化(画一化)すること>という解釈である。
先に触れた、[衛生要因](苦情の原因をなくす)的な追及だと、“笑顔のロボット”化になる恐れがある。

◎今後、求められるのは、[満足要因]の追及

今日、我が国のチェーンストア企業に求められていることは、“真の”CS(お客さま満足)の追及である。多様化し、成熟化した消費者が、“本物CS(お客さま満足)”にないと納得しない。
[衛生要因](苦情の原因を取り除く)追及は、初期の役割を果たし終わった。問題は、次のスッテプヘ([衛生要因](苦情の原因を取り除く)追及から[満足要因]の追及へ)どのように移行させるかである。

◎[クッション動作]と[クッション言葉]を多用することによって、個々のお客さまとの人間関係のきっかけづくりが可能!

[クッション動作]と[クッション言葉]があるらしい。最近聞き知った言葉である。
(1)[クッション動作]とは、
何気なく、挟み込む動作である。目的は、気付かい、心配りである。
○お客さまに釣銭をお渡しする時に、左手をそっと添える
○清算済みの商品を袋詰めカウンターまで運んでさしあげる
○後ろの方にお並びの顔見知りのお客さまに会釈を送る
○お年寄り、手の不自由なお客さまに遅い動作を暖かく待ってさしあげる
○お年寄りの精算後の後姿をワン呼吸見送る
○各種のお困りのお客さまの手助けをする
※これらはOJIの[機会のムダ]対応事例でもある。
(2)[クッション言葉]とは、
気遣い、気配り、気付きの言葉である。
○お年寄りに、大きな荷物をお持ちのお客さまに「お気をつけてお帰りください」と声をかける
○1人待ちのお客さまには、「お待たせいたしました」、2人以上お待たせのお客さまにには、「大変、お待たせいたしました」、長蛇の列のお客さまには、「大変お待たせして申し訳ありませんでした」と言い添える
○顔見知りのお客さま、昨日も見かけたお客さまには、「いつもお買い上げいただきありがとうございます」と言う
○親しいお客さまには、「こんにちは!」と言い添える
○財布より小銭を取り出すのに手間どってあせっていらっしゃるお客さまには、「どうぞ、ごゆっくり」と言って差し上げる

[クッション動作]と[クッション言葉]は、お客さまとの人間関係を深める効果がある。あいさつの“バラエティ”は、マニュアル型接客からの脱却の近道である。
ここでは、笑顔が生まれ、笑いが生まれ、数々の“ドラマ”が生まれるのである。
ここでは、多くの“苦情”が、“アドバイス”に変わるのである。
(2011年1月)
村上 忍

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