<新連載>  今更に学ぶ 〔レイバースケジューリング・オペレーション〕

はじめに

◎〔レイバージューリング〕の原点としてのテイラーの功績

テイラー(フレデリック・ウインスロー・テイラー〜1856—1915〜)とは、〔科学的管理法の原理〕(1911)で有名なあのテイラーです。テイラーはイギリスで始まった産業革命によって各種の発見、開発よって産業発展を果たして、産業革命の中心地をなったアメリカで「科学的管理法」(労働者の仕事の研究、分析、組み立てに知識を適用した)によって、工場の工員の「怠業(意図的さぼり)」、「管理・監督者と工員の間の不信感」、「恐怖管理(恫喝、解雇)」を劇的に改善して、生産性を向上させました。

テイラーの「科学的管理法」は、単に生産性を抜本的に高めたのではなく、工員の賃金向上を目指したのです。
彼は「管理の目的は労使共の繁栄である。」とし、「従業員の繁栄とは、賃金の向上ではなく、持てる能力の仕事での最大限の発揮である。」としたのでした。
しかし、残念ながら彼の理想(夢)は存命中に、世の中に理解されず、実現もされませんでした。  
<計画、管理と現場作業との分離>という今ならば当たり前に受け入れられる考え方も「労使の対立を激化させた。」と労使双方から非難されました。「結局は、科学という名の労働強化である。」と労使のみならずマスコミからも批判を浴びました。
そしてテイラーは失意のうちに60歳で亡くなったのでした。

当時、経営側は生産性向上一辺倒で暴走し、労働者はそれに反発してテイラーを批判しました。テイラーの「科学的管理法」の考え方(理想)は、彼の裁判所の弁明記録に残っているという皮肉は、彼の晩年の状況を伺わせます。

結局、テイラーの理想は10年後、同じく科学的な手法を用いながら、人間性重視の考え方の強調した方法論を開発したオーストラリア人のメイヨー(エルトン・メイヨー〜1880—1949〜)に引き継がれフォード・システムで実現します。

◎今日の〔レイバージューリング〕は、正しく理解させて機能しているでしょうか?

〔レイバージューリング〕とは、科学的な考え方と数値化によって合理的な店舗運営、部門運営を進める実務論です。テイラー“直伝”の知識と実務論をアメリカのグロサリーチェーン(クローガー、セイフエイ、アルバートソン、ジュエル他)が導入したものでした。彼らそれぞれの企業の[スーパーマーケット・マネジメント・プログラム]の根幹が〔レイバージューリング〕なのです。

日本に、〔レイバージューリング〕及び[スーパーマーケット・マネジメント・プログラム]が、最も体系的に紹介されたのは、1980年に西友が米国の大手スーパーマーケット・チェーンのジュエル社より学んだものです。
当時の流通業界では珍しく、本格的に「技術移植契約」を取り交わし、数年にわたって研修生を送り込んだ本格的なものでした。
そこで西友がジュエル社から学んだ(技術移植の中身)のは、[スーパーマーケット・マネジメント・プログラム]です。
当時、西友のみならず日本のチェーンストア各社が学んだことは(学ばなければならなかったこと)、科学的店舗運営とその基本的な考え方(価値観と原則)でした。

しかし、テイラーの時代の製造業の経営者同様に日本の小売り業経営者も“暴走”しました。
折からの高度成長の波に乗って経営規模の拡大をチェーン化によって果たそうと各社は躍起でした。テイラーの目指し、メイヨーが実現したが実現した《 科学的な方法論のもと生産性向上のみならず従業員の働き方の改善を取り込んだ[スーパーマーケット・マネジメント・プログラム] 》が紹介させたのですが、日本の多くの小売業経営者(チェーンストア指向経営者)は、事業規模拡大のための[スーパーマーケット・マネジメント・プログラム](テイラーとメイヨーの理想の具現化プログラム)を深く理解せずに取り組んだのです。

◎当初の日本のチェーンストアの取り組みは・・・

テイラーの製造業の工場管理のための「科学的管理法」の考え方と方法論は、小売業のチェーンストアをいう経営方式に“見事に”ハマりました。
多店舗化(これは広い国土を持つアメリカの小売り業としては必然的でした)が、科学的な方法論の裏付けのあるチェーン化に変わったとき、小売業態は<士農工商>(最下層の商業)の位置づけを脱し、産業となったのです。

しかし、アメリカの小売業と日本の小売り業とでは、チェーン化の過程(環境条件)に違いがありました。

アメリカの場合;

⑴当初より「標準化」指向が強かった
⑵「パートタイマー」による店舗運営が最初からベースにあった
⑶強力な労働組合の存在して労働者の権利を擁護していた

⑴について
「標準化」は、科学的な店舗運営のです。店舗運営の数値化が可能になります。店舗の標準化により、出店のスピードと出店コストの削減が可能となります。
作業の標準化に作業の出来栄えを向上させ、パートタイマーの訓練の効率化を図れます。お客さまへ提供する商品とサービスを高いレベルで安定させることができます。一つの「改善」を全店に拡大できます。

一方、日本の場合、「標準化」は建前として受け取っている傾向がありました。多店舗化のペースもアメリカ程早くなく、従って「標準化」のローコスト化効果に見向きをしなかったのでした。

⑵について
「パートタイマー」契約が基本です。全員時給契約です。週次で勤務計画が組まれて週休は1日以上で、ベテラン・パートタイマーは、たくさん(上限48時間)働く傾向があります。フルタイム・パートタイマーから部門マネジャーが選任されます。従って、部門マネジャーは原則として組合員です。年間休暇は勤務年数で決まり、全員“大型バケーション”を楽しむようです。

一方、日本の場合、「パートタイマー」化には、当初熱心ではありませんでした。従って、フルタイマー社員がパートタイマーと同じ作業職をやっていました。<同一労働同一賃金>違反はまかり通り、今日までその悪弊が残っています。

⑶について
アメリカの労働者は組合に守られています。店舗で店長により不当労働行為があれば(あると認められれば)、店長の首が飛びます。勤務態度の良くない従業員、遅刻の多い従業員をも滅多に解雇できません。そのような従業員は解雇を通告すると、組合に訴えます。そして、組合は会社側の労務担当へ調査を要請します。そこでその従業員の勤務ぶりと店長の労務管理ぶりが労使で調査します。そして、万一店長の労務管理上の不備が見つかれば、訴え出た従業員の問題より店長の問題を組合が問題視して、店長の首が飛ぶことさえあります。従って、店長は、問題従業員については、問題行動を確認した場合は、その都度文書で残し、その書類にサインさせます。<イエローペーパーがレッドペーパーになったら、即退場(解雇)>と言う訳です。労使共に、労務管理にシビアです。皆よく働きます。店長は可能な限り少ない人時での[週次勤務スケジュール]を組みます。これは決して無理を期待する[週次勤務スケジュール]ではないのです。
ここで確認したいことは、過重労働、“サービス残業”などあり得ないということです。

と言うことで、アメリカのチェーンストア企業では、〔レイバースケジューリング〕は、経営側にも従業員側にも有効に機能していると言えます。

一方、日本のチェーンストア企業では、経営側にとっても従業員側にとっても有効に機能しているとは言えません。その結果として、生産性が低く、その生産性の低さのツケを従業員を負っているのではないでしょうか。
昨今問題となっている“ブラック企業”とは、生産性の低さを現場の従業員の過重労働に補っている企業のことで、その多くはチェーンストアです。
勿論、そのような企業が、科学的で合理的な店舗運営をしている筈もありません。

◎今さらではなく、今更に〔レイバースケジューリング〕の再学習を!

日本では、1990年代に〔レイバースケジューリング〕が、〔スーパーマーケットマネジメント・プログラム〕の中核となる考え方と手法として紹介され、チェーン各社で取り組まれました。
その後、コンピュータと中心とする情報処理システムの発達で「勤務者のスケジューリング方法」だけは大手チェーンストア企業では完成しています。しかしながら、生産性の低さ、労働環境の悪さ、改善指向のなさ等の問題は多そうです。

そこで今回は、〔スーパーマーケットマネジメント・プログラム〕ではなく、〔レイバースケジューリング〕をとことん学ぶことにします(「マネジメント(管理)」ではなく。「オペレーション(運営)」)。
まずは、〔レイバースケジューリング〕の元祖であるテーラーの実験・観察と彼の目標と状況・価値観・打ち立てた実務原則を徹底的に学ぶことから始めます。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加