[第3章]チェーンストアの科学的店舗運営〔レイバースケジューリング〕の誕生とそのDNA(本質)

科学的な現場実務管理の考え方と実務は、今から100年程以前に製造業で生まれました。

前章までで学んだように、テイラーの理想的哲学と方法論は、製造業の作業管理の現場では、初期には必ずしもスムースに導入されなかったようです。
その点、小売業界では、抵抗なく導入されました。
その理由は、小売業界では革新的で合理性を重んじる新興経営方式を指向するチェーンストアが、自らの基本原理として導入したからです。
これは、グロサリー・チェーン企業に限ってのことです。
チェーンストア方式をとる中心業態であるグロサリー・チェーン企業が、製造業の〔科学的管理法〕に注目し、その導入を試みました。先鞭を付けたのは、大手ロサリー・チェーン企業のセーフウエイであり、製造業の専門技術者を20名程採用し、店舗の後方部門の仕事の見直しから始めました。この試みは、あっという間に業界(グロサリー・チェーン)企業に広まり、各社が競ってプログラム開発に乗り出しました。
特徴的なことは、小売業界(チェーンストア企業)に於いては、テイラーの〔科学的管理法〕の基本精神と科学的な方法論を忠実に持ち込んだことです。

その点、日本のチェーンストア指向の企業(スーパーマーケット企業)は、チェーンストアという経営方式にはほとんど関心がなく、独立系スーパーマーケット(チェーンオペレーション指向のグロサリー・チェーンSMと競合し、マーケティング的特徴で評判を得ているSM企業)にのみ関心と魅力を感じて、その“その物真似的(表面的)”導入を競いました。
爾来、スーパーマーケット企業中心に、“収益性”を評価のポイントから外して、“目新しさ(話題性)”のみ追いかける悪弊が続いております。業界ジャーナルの扇動も大きかったようです。

◎ テイラーの理想(哲学)を忠実に組み込んだ〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕

当初、日本の流通業関係者(先進的チェーンストア経営者、流通業関連分野の学者、流通ジャーナリスト)が得たチェーンオペレーションに関する情報は断片的であり、生産性向上を実現する実務ノウハウ(実務としてのレイバースケジューリング)だけが紹介されただけでした。(ほとんど、日本には、科学的店舗運営〜チェーンオペレーション〜に関する情報が残っておりません。)

しかし、1980年から数年かけて、西友が米国のグロサリー系スーパーマーケット・チェーン〔ジュエル社〕の技術移植契約を結んで、当時としては最も先進的な〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕を導入しました。
勿論、〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕の基本は、科学的な考え方に基づいた〔レイバースケジューリング〕です。
ここで重要なことは、〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕が、テイラーの思想と哲学を理想的に組み込んだものであることです。

◎〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕の基本構造

〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕の構造を図①の通りです。

テイラーの科学的で合理的な方法論は、〔レイバースケジューリング・プログラム[「店舗運営基順書」+「レイバースケジューリング・システム」+「人件費管理システム」]〕です。

テイラーの理想、哲学は、政策・課題の精神を具現化する〔「社員意識調査」(従業員満足)+「提案制度」(お客さま満足、企業満足)+「内部業務監査」(企業満足、お客さま満足)〕です。
つまり、チェーンストア(グロサリーチェーン)が開発した〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕は、テイラーが【科学的管理法】で提示した思想、哲学を具現化したものでした。

ドラッカーもテイラーを次のように高く評価しております。

『テイラーこそが、人類の歴史上で恐らく初めて労働作業を当然のものとして見過ごさず、研究の対象として光をあてた人物である。・・・・・中略・・・・・テイラーを研究に駆り立て、意欲を刺激し続けたのは何よりも、心身を蝕む苦役から労働者を解き放ちたいとの思いだた。・・・・・中略・・・・・テイラーは、労働の生産性を押し上げ、それによって労働者たちをまずまずの暮らしをさせたいと願ったわけだ。』
この一文で私は、テイラーを正しく理解できた上に、このように評価してみせるドラッカーに対する敬愛の念を深めました。
つまり、テイラーの<心身を蝕む苦役から労働者を解き放ちたいとの思い>に共感してみせるドラッカーの信念、哲学があってのことなのです。

と言うことで、スーパーマーケット(グロサリーチェーン)は、製造業から(製造業が試行錯誤した結果としての)科学的で合理的な店舗運営(管理)のマネジメントの方法論を学んだのです。そのことの確信を、ジュエル社(1980年当時の大手グロサリーチェーン)の〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕を学んだ結果得たのです。それは実務と言うよりは、理想論に近かったからです。
こなれたものではなく、ジュエル社のトレーナーも出来立て(学び立て)の方法論を誇らしげに話したものでした。

◎ 〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕の基本構造⑴【店舗運営基順書】

〜以下今回(6月12日)追加掲載分〜

【店舗運営基順書】は、店舗運営に関するあらゆる決め事、基準、標準を決めたものです。その内容の中心は、我が社として店舗運営(部門運営)に関する全ての業務、作業を定義し、確定することです。

【店舗運営基順書】は、店舗運営(部門運営)に関して、その仕事(業務、作業)の目的、考え方、定義、手順、使用する道具の指定、実施所要基準時間、実施頻度、実施上の注意事項が記載されます。

つまり、【店舗運営基順書】は、〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕の中心であり、他(「レイバースケジューリング・システム」、「人件費管理システム」、「内部業務監査」、「社員意識調査」、「提案制度」)は、【店舗運営基順書】の完全実施のためのサブ・システムなのです。この他にも各種マニュアル類が作成されます。

※   余談ですが、私たちが〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕を学んだスターマーケット(ジュエル社のボストン・デイビジョンのスーパーマーケット)は、同社の【店舗運営基順書】を《スターグラム》〜STAR-GRAM〜と名付けておりました。後年、コンサルタントとして企業のお手伝いをした際に、この名をもじって、三洋堂書店では《サン・グラム》、無印良品では《MUJI−GRAM》と各社の【店舗運営基順書】を名付けたものです。近年、無印良品の松井会長が「当社は、マーケティング主体の会社運営ではなく、システム主体の会社運営である!」との本を書かれて話題になったが、その内容は《MUJI−GRAM》中心の〔マネジメント・プログラム〕を確立して今日があると仰りたかったのでしょう。(勿論、“名付けの親“より、“育ての親“です!!)

【店舗運営基順書】は、部門ごとに作成され、管理、維持されます。【店舗運営基順書】は、店舗実務管理の根幹ですから、改廃が“命”です。この改廃が滞ったら、店舗運営は崩壊します。逆に、【店舗運営基順書】の改廃が頻繁で、徹底されていると、政策が実務レベルで出されて、現場に徹底されるわけですから、売場がタイムリーに変化し、新鮮に保たれているわけです。

【店舗運営基順書】を中心に売場を活性化させ続けている企業として有名なのは、「しまむら」です。                                 【店舗運営基順書】の改廃は、次のような場合が考えられます。

⑴政策が変更された場合・・・・・政策は、業務、作業に落とし込まれなければ実現しません。科学的な店舗運営を指向する企業は、政策変更の実を[固定業務]の変更、システムの変更で確認します。

⑵システムの変更がなされた場合・・・・・政策が変更された場合には、店舗運営の一部のシステムを変更することによって、具現化します。その変更は、即全店に徹底しなければなりません。

⑶運営組織が変更された場合・・・・・政策が変更される場合には、政策実現のために往々にして、組織が変更されます。多くの組織変更は、個々の役割分担の変更を伴います。【店舗運営基順書】では、それらの“役割分担の変更”を明示し、徹底します。

⑷作業の改善がなされた場合・・・・・作業改善は、【店舗運営基順書】でオーソライズされて、全店の実務の現場で徹底実施されます。

⑸人時削減の指示(政策)が出された場合・・・・・・人時削減の指示(政策)が出された場合、本部スタッフ部門で「新しい人時枠」での運営可能な“作業手順” 、“システム”を開発して、実務実験をへて、

新しい“作業手順” 、“システム”を【店舗運営基順書】で紹介し、徹底します。

⑹実務担当者の実務力が全体的に向上した場合・・・・・年度は変わる際に、業務、作業の基準人時(RE)の適正化をします。科学的店舗運営の基本は“ムリ”を徹底して排除します。また、“ムダ”を嫌います。

◎ 〔スーパーマーケット・マネジメント・プログラム〕の基本構造⑵【レイバースケジューリング・システム】

〜以外次回〜

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