2015年05号]   来るべき時代を支えるであろう概念(考え方)  《ケアを問い直す》

《ケアを問い直す》

はじめに

○ 〔ケア〕とは

:その相手に「時間」をあげること
:狭くは「看護」や「介護」、中間的なものとしては「世話」であり、もっと広くは「配慮」「関心」「気遣い」である。

○ 人間とは「ケアする動物」である

○ 「ケア論」の三つの場面

⑴[臨床的/技術的]レベル
⑵[制度/政策的]レベル
⑶[哲学/思想的]レベル

⑴は、まさに個々の現場的な場面での「ケア」のあり方であり、同時に介護技術、看護技術、ガウンセリング手法、ケア計画といった、技術論としての側面を持っている。

⑵は、個々の現場を超えた、制度やシステムに関わる次元であり、現在活発に議論されている介護保険制度とか、訪問介護制度、ケア・マネジメント・システム、そして結局は医療福祉制度や社会保障等全般におよぶものである。また、医療保険の診療報酬での評価など、ケアを巡る「経済面」を含むものである。

⑶は、これらのもっと根本にある、そもそも「ケア」をは何か、それは人間にとってどういう意味をもつものかという根本的な問いに答えるものである。

<ケアする動物としての人間>

〜ケアと脳〜

○ 脳の機能と進化

:「脊髄」反射の経路・・・下等生物
:「脳幹」基本的な生命維持活動(摂食・生殖等の本能行動や自律神経〔視床下部〕、呼吸、心臓運動等〔延髄〕など)・・・ハチュウ類
:「大脳辺縁系」情動・・・ホニュウ類
:「大脳皮質(とくに前頭葉)」知覚、認識、思考等・・・ヒト

○ 「情」が「知」を規定する

:情動判断のほうが知を含めた脳の活性を制御する
:情動は、「ケアに関わる感覚」

○ ハイデガーの「ケア」論

:人間が生きる世界の意義は、二つの「気遣い」の存在にあるという
⑴他者に対する「気遣い」
⑵物事に対する配慮的「気遣い」

:まず「気遣い」があってこそ世界は価値が与えられ「意味」をもったまとまりとして立ち現れる
:この「気遣い(Sorge)」は、英語にすれば、「ケア」になる
:「ケアが世界に意味を与える」、「世界を世界たらしめるのは、ケアである」
:『存在と時間』は、文字通り「ケアの哲学」と読むことが出来る。

○ ケアの科学の可能性

:ケアの本質的要素の一部をなすのは「情動」、あるいは「情動に関わるコミュニケーション」である。
:必要以上に「ケア」を「知」に接近あるいは還元しようとする方向は、過度に及ぶと足元をすくわれる危険がある。

○ 人間の個体性と社会性

:人間は、限りなく「自我」、いいかえると「個体性」ということが発達した生き物である。

○ 人間が「個」であることとケア

:ヒトの場合は生まれた後の、親との直接的やりとり、ひいては兄弟など他の家族や遊び仲間等とのコミュニケーションを通じて「私」を形成していく。
:高度の社会性が、人間の強い「私」性をそのまま支えている。
:「生殖後期」すなわち「老齢期」が、他のホニュウ類に比べて際立って長いことから、「子が(老いた)親の面倒をみる」ということはじめて出てくる。
:「高齢者ケア」とはまことに人間独自の問題なのである。
:ここでいう他者との関係性というのは、まさに「ケア」ということの他ならない。
:人間とは、こうした意味合いにおいて、文字通り「ケアする動物」である。

○ ケアと性差

:「ケア」が「情動」という感覚と重なり合うものであり、それは脳の大脳辺縁系に座を持つもので、最近の研究から、「知」や「認識」の基盤をなすものであることが明らかになってきた。
:ここで避けて通れない問題が残っている。それは「性差」、つまり男性・女性という「性」の違いとケアとのかんけいである。
:ナイチンゲールは『看護覚え書き』の冒頭で「女性が誰も看護婦なのである・・・」と書いている。
:「ケア=女性の仕事」という一つの方向性が浮かび上がる。
:ところが、これまで述べてきた通り、「ケア」自体は男女の違いを超えて「人間」すべての固有の特性である。
:臨床心理士学者の河合隼雄氏は、「父性原理、母性原理」という論を展開しておられ、「父性原理」は「切る」、「母性原理」は「包む」機能を主にすると論じた。
:競争を積極的に考える「父性原理」、絶対的とのいえる平等感ないし一体感と共生感を考える「母性原理」

○ 「ケアの倫理」と「父性原理」/「母性原理」の使い分け

:精神面のケアなのか、介護中心のケアなのか、経済・生活面のケアなのか
:「父性原理」は、道徳問題・権利・規則問題に必要
:「母性原理」は、人間関係に必要

○ 日本における課題・・・「ケアと性差」をめぐる新しい状況

:女性労働のあり方の変化
:女性医師の急増で医療の内容に変化が生じてきた(もともと医療は「母性原理」の色合いが強い領域)
:医療に老人ケアの比重が高まってきた(93年現在で、病院入院患者の48%が65歳以上の老人である)
:「医師=男性、看護師=女性」といった構図が急激に変化してきている
:ケアに関する雇用の急増

○ 「ケアの時代/公正が問われる時代」としての高齢化社会

:「ケアの倫理」と「公正の倫理」の融合
:高齢化社会=年金社会の到来
:年金制度の世代間の公正さと公平さが問題となる

<死は医療のものか(福祉のターミナルケア問題)>

〜ターミナルケアへの接近〜

○ ターミナルケアの問題は決して「技術的な問題ではない」

○ 死は医療のものか

〜福祉のターミナルケア〜

○ イギリスのホスピスの位置づけ

○ ホスピス/ナーシングホームの二極分化と「ホスピスの病院化」

○ スウェーデンの場合

○ 死に場所の変化と選択の拡大

○ デイ・ホスピスという新しいコンセプト

○ ケアのあり方と種類の役割分担①ソーシャル・ニーズの対応

○ ケアのあり方と種類の役割分担②看護職の重要性

○ 老人ホームでのターミナルケア

○ 消極論/特老でのターミナルケアは困難

○ 積極論/ターミナルケアを実施している

〜政策としてのターミナルケア〜

○ 政策的な必要性

:A.「死に場所」の「選択」の拡大と多様化
:B.「政策としてのターミナルケア」の確立

○ これからのターミナルケアの全体的見取り図

:「死に場所の選択の拡大」の具体的選択肢

⑴特養やグループホームでのターミナルケア
⑵在宅ホスピス(含む、福祉との連携)
⑶在宅福祉
⑷デイ・ホスピス(含む)、病院、特養

<高齢化社会とケア>

〜介護問題とは何か〜

◇ 保健か税か
◇ 介護保険と医療保険との関係は・・・
◇ ケアマネジメントをどのような制度の中に位置づけるか・・・

○ 介護問題の新しさ−−−介護問題は単なる「高齢化問題」か?

:そもそも「介護問題」は、なぜ“突然に”生じたのであろうか?
:「高齢化社会で高齢者が増えたため介護問題が出てきた。」
:ならば、同じ「高齢化問題」の一環である「年金」や「高齢者医療」の問題はずっと以前から論じられていたのに・・・
:その訳の一つ、「高齢化問題」は、いわば「65歳問題」であり、定年退職後の所得保障の問題、医療の問題も「65歳問題」であった。しかし、「介護問題」は決して65歳ではない。後期高齢者(75歳〜)の問題である。

○ OECDが1996年の初めて取り上げた「オールデイスト・オールド」(80歳以上の者)の割合の増加問題が発端。この割合が全人口の2%を超えた年

:フランス1961年
:イギリス1962年
:スウエーデン1963年
:ドイツ1973年
:アメリカ1973年
:日本1983年
「人生80年代」、「人生90年代」時代に「定年65歳」が高齢者ではあるまい!

○ 「健康転換」というコンセプト

:[健康転換の第1相](飢餓・疫病から)感染症への段階
:[健康転換の第2相](感染症から)慢性疾患への段階
1951年(昭和26年)
:[健康転換の第3相](慢性疾患から)老人退行性疾患への段階
1985(昭和60年)

○ 高齢化社会の意味

:一般的な生物の一生

◇ 成長期(性成熟年齢に至るまでの時期)
◇ 生殖期(性成熟年齢以降の、生殖が可能な時期)
◇ 後生殖期(生殖期を終えた後の時期)

○さまざまな生物の中で“生殖期を終えた後の「後生殖期」が際立って長い”ところが人間の特徴である。

○  この「後生殖期」こそ「高齢期(老年期)」に他ならないのであり、単なる生物を超えた、人間独自の意味がこの高齢期にあるといっても過言ではない。

○  この「後生殖期」こそ人間の本来もつポテンシャルが真に「発見」される社会であり、人類史、いや生命史の到達点ともいうべきステージと捉えられる社会といえると思われる。

○  (とはいえ)後生殖期(老年期)においては、生物としてのヒトの生理的機能が“不可逆的に”低下していくことは避けられない。したがって、「後生殖期が普遍化する時代」としての高齢社会とは、自ずと「『障害』が普遍化する社会」でもある。

○  『障害』そして「ケア」ということが、高齢化社会の中心的なコンセプトとなる。

○  通常の慢性疾患から老人退行性疾患への変化(健康転換第3相)には質的に大きな違いがあるため、ケアのありかたのみならず、それに対応する医療・福祉システムないし制度としても新しい枠組みが必要となってくる。

〜これからの医療・福祉供給体制と財政〜

○  これからの方向⑴——医療・福祉供給体制

:いま問題の「健康転換第2相」(老人退行性疾患への転換)においては、「生活モデル」へのシフトということを基軸として、

(a)  医療⇒福祉

(b)  施設⇒在宅(地域)

という方向が基本となる。

○  これからの方向⑵——財政システム

:ドイツの場合、「保険」の世界と「税」(による公的扶助)の世界を画然と区別していて、日本の老人保険制度に相当する制度がなく、退職後ももとの疾病金庫(日本の健保組合に相当)が面倒見るという、いわば「年齢を通した」制度となっている違いがある。

〜ケアマネジメントの根底にある考え方〜

○  ⑴効率的な資源の活用

:限られた資源の中で、いかにそれらを有効に組み合わせ活用してサービスの提供を図るか。

⑵ニード中心主義

:サービスからではなく、まずはいったんニードから出発する

:多くの人々が集中的な医療サービスよりも総合的な生活サービスを、施設の生活よりも在宅での生活を求めているのではないか。

:またそのような方向へサービス体制の再編を図ったほうが「効率的」でもある。

<ケアの市場化>

〜ケアの経済学に向けて〜

○  「ケア」は経済的な規模においても非常に大きなものとなっている。

○  今後特に拡大が予測される分野(1997年、2010年に向けて)、雇用拡大の上位3分野

⑴医療・福祉、現状335万人が2010年469万人(134万人増)

⑵情報・通信、現状125万人が2010年244万人(119万人増)

⑶流通・物流、現状49万人が2010年144万人(95万人増)

○  1990年頃、日本では道路整備、貿易摩擦、経済成長率など「経済」関連の話題がマスコミの中心であったが、米国では医療、福祉、犯罪、教育など「非経済」関連の話題がマスコミの中心であった。

○  その背景には、経済の構造的な低成長・成熟化と高齢化がある。

〜「福祉」という言葉のふたつの意味〜

○その一つ目の意味は、「低所得性に着目した施策」というものである。

○  その一つ目の意味は、「低所得性に着目した施策」というものである。

○  それは生活保護であったり、各種手当(母子家庭に対する児童扶助手当など)であったり、施設の提供または収容(救護施設、児童館など)、何らかのサービス(ホームヘルプや相談事業など)であったりと、施策の内容そのものはさまざまであり、あくまで「低所得性」ということがメルクマールとなっているのである。

○  「福祉」が今後の最大の成長分野であるとか、「福祉関連ビジネス」とは「福祉産業」という場合、こうした場合の「福祉」の実質的な意味は、おそらく「対人社会サービス」ということであろうと思われる。

○  「対人社会サービス」を再編するという場合には発想の切り替えが必要であり、その発想の切り替えは多方面に波及する。

⑴それもでの福祉サービスが、児童福祉、老人福祉、障碍者福祉とサービスが分野ごとタテ割りであったのを「対人社会サービス」という横断的な切り口で統一的にとらえることになった。

その結果、福祉に関わる職種であるソーシャルワーカーも、そうした分野ごとに“専門分化”していたのが、「普遍的ソーシャルワーカー」として、あらゆるタイプの問題に対応する方向が重視されるようになった。

⑵福祉が医療との接点が開けてきたということがある。「医療」というコンセプトは、あくまでサービス内容に着目したものであるから、だとすると、「福祉」が「低所得性」という切り口でとらえられる限りは、両者は異平面に属するものとしてすれ違うのみである。ところが福祉を「対人社会サービス」という具合いにサービスの内容に着目してとらえることにすると、医療は“同じ平面上”に並ぶこととなり、その連携とか、役割分担ということが課題として認知される。

○  いずれにしても、こうして「福祉」という言葉は「対人社会サービス」として、サービスの内容に着目した概念として新たにとらえられることとなる。であるからこそ、それは「市場化」の対象となったり、「福祉関連ビジネス」とか「福祉産業」といった表現になり、“今後の大きな成長分野”といわれたりするのである。

○  「対人社会サービス」が、“今後の大きな成長分野”であるとすると、「対人社会サービス」=「ケア」であるから、ケアが今後の経済的最大の成長分野ということである。

〜ケア・サービスの特性〜

○  「対人社会サービス」つまり「ケア産業」として想定される分野

⑴医療・福祉(含む、介護)

⑵子育て/保育関連

⑶教育

⑷心理/カウンセリング

○  ケア産業の特性

⑴「相互性」・・・サービスの提供者と受け手(=消費者)との相互作用そのものに意味・価値がある。

⑵「時間」という要素の重要性・・・サービスのアウトプット(成果)のみならず、サービスが提供されるその過程での「時間」という要素が重要であること・

⑶「評価」のあり方・・・サービスの評価において、受け手の満足度や提供者に対する信頼など、受け手側の要素が重要な意味を持ち、またそれがサービスのアウトプット(成果)にも影響を及ぼすこと。

○  サービスを供給という点から見た特徴は、

⑴労働集約型であること

⑵労働力としての女性の比重が大きいこと

⑶非営利組織の比重が高いこと

○  時代的変遷

:17〜18世紀・・・モノの消費(食物など)

:19世紀・・・・・エネルギーの消費(電気、ガスなど)

:20世紀終盤まで・・・情報の消費(デザイン、本、ブランド、各種メデイアなど)

:20世紀終盤から21世紀・・・ケアの消費

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加