高齢者雇用時代における産業保健

[産業保健2]より

〈問題意識〉
高齢者雇用は年々増加していく。
熟練社員の知識や経験は、技術伝承等の場面でプラスに働くことが多い一方で、加齢による筋力・持久力等の低下は、災害発生リスクの増加や生産性低下につながる。
高齢労働者に安全で健康に長く働き続けてもらうための必要な知識とは・・・。

〈はじめに〉

人口減少社会の中で社会の活力を維持し、持続的な成長を維持していきたい。
高齢者や女性が活躍できる機会を確保する「一億総活躍社会」の実現したい。
そのためには、「持続可能な社会保障制度の構築」が必要である。
多様な形態で高齢者の雇用・就業を促進する。

“人材こそがわが国の最大の資源である”との共通認識を持ちたい。

◎労働衛生管理3管理

⑴作業環境管理

●ストレスの少ない快適な作業環境を守るために、判断・記憶力の程度を考慮した対策が必要である。

⑵作業管理

●年齢に応じた作業内容、手順を整理し決めるとともに、新しく学ぶ作業に関しての教育方法を検討する。なお、経験豊富な高齢労働者の場合、ときとして、安全対策およびばく露防止対策を省略する可能性があるためそのチェックも重要である。

⑶健康管理

●基礎疾患を持つ作業者の割合が増加していくため、計画的な心身両面にわたる健康の保持増進対策が必要である。なお、健康状態に関しては個人差が大きいため、こまかい対応が要求させる。

◎高齢労働者における健康課題

⑴高齢労働者で増加する疾病

●生活習慣病(糖尿病、高血圧)や虚血性心疾患、脳血管疾患、肺炎、脊柱・筋骨格系・結合組織の疾患や骨折、ジン尿路系疾患が増加傾向である。
  60歳からの10年間で癌に罹患するのは男性で12.6%、女性で7.3%におよぶ.

⑵高齢労働者に生じる機能低下

●感覚機能(視力、聴力、皮膚感覚、目の明るさ順応)、平衡機能、疾病への抵抗力
と回復力の低下、夜勤後の体重減少からの回復力が低下する。
●下肢筋力や身体の柔軟性(脊柱の前屈や側屈に比べて肩関節が顕著)が低下する。
●速度に関する運動機能(書字速度や動作調節能力)が低下する。
●精神機能(記憶力や学習能力)が低下する。

⑶高齢労働者の直面する心理社会的問題が発生する

●両親、配偶者等の看護や介護、死別が発生する
● かっては後輩、部下であった人々との人間関係の変容する
● 報酬の減少や権限の喪失によるモチベーションの低下する

◎加齢現象にともなう健康課題の特徴

●正常な加齢現象は誰もが経験し、避けられない
●病的な加齢現象は生活習慣等の影響があり、予防は不可能ではない
●加齢現象は、疾病の増加や機能の低下を通して、直接的に就労能力に影響を及ぼす
●加齢現象は、個人差が大きい
●加齢現象は心理社会的な側面と関連性がある
●加齢現象の影響は高齢者差別(エイジズム)によって増強される可能性がある

◎経営者、人事部門責任者が心すべくこと

⑴高齢労働者を雇用し続けることは国内で事業活動を続ける限り、法的要求であり、
 避けることはできない。
 現役と呼ぶに相応しい高齢労働者を活用するのは有益である。

⑵加齢にいわゆる過重労働が加わり、動脈硬化性疾患を発症するケースや、高齢労
 働者に躓きや転倒が起きやすく、被災時の身体的な反応が低下していることで労
 働災害による死傷事故が生じる可能性は問題である。
 それらは、すべての人材にかかわるリスクとなるので、これを低減するために対
 応、対策を行うことができる。

⑶高齢労働者が事業活動に貢献するために、加齢にともなう疾病や機能低下の影響
 を最小限にしていく必要がある。
 つまり、現役を続ける労働者個人と職場の双方の生産性の維持・向上も、これか
 らの産業保健活動の目的をなる。

◎個々の高齢労働者に対する健康診断の有り様変更しよう!

⑴動脈硬化性疾患の未然防止のためのいわゆる生活習慣病対策だけではなく、例え
 ば、ガンのスクリーニングを何らかの方法で実施・提供したり、心身の機能を測
 定し、回復、維持につなげていく方策を検討する。

⑵事後処置の内容を保険指導のみに留めず、たとえば、視力検査によって明らかに
 なる老視が問題になるVDT作業に対しては、ディスプレイを大型のものに変えて、
 文字を大きくして、さらに輝度を上げるなどの作業環境管理的な手法を検討する。

⑶筋力の測定や自覚症状調査等を丁寧に行う。例えば、重量物の運搬が難しいのな
 ら、治具を活用したり、自動化を行なうなどの作業管理の対応も検討できる。

◎関連部門との連携を深めよう!

⑴これらの準備や対応を行なうために、産業保健スタッフや安全管理部門や施設管
 理部門との目的の共有化、情報交換や対話を通じて、多面的なアプローチが実施
 できる環境を確保する。

⑵人事部門と、心理社会的な問題についての対応の枠組みを協同で作成していく。
 例えば、親などの介護は、労働者の就業に直接的に影響するので、介護問題に直
 面した労働者へのサポートを人事部門と協同で行っていく。

⑶人事等による教育・研修の場を活用・拡大する。例えば、産業保健スタッフが主
 導してきた健康教育の枠組みを、加齢現象について学ぶ場へと変えて行く。

※添付されたJFEスチール株式会社の取り組み事例は、小売企業の今後の取り組みに参考になる。“ここまでやらなければならない!”時代が来ている。

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